
第1章:「進める力(意志)」と「留まる力(思考)」
宇宙が生まれるより前、そこにあったのは「関係」でした。この関係こそが、最初に生まれた“力”の姿です。その力はふたつ――「進める力」と「留まる力」。それはちょうど、宇宙空間で向かい合うふたりのような関係でした。
何もない無重力の世界で、留まっている人(留さん)が、相手(進さん)を押すと、進さんはスーッと遠くへ進んでいきます。けれどそのとき、留さんもまた、反対側へ動いていくのです。
どちらが動いたのか?
どちらが押したのか?
それは、見る人の視点によって変わります。
進さんから見れば、「留さんが壁を蹴って進んだ」ように見えるかもしれません。留さんから見れば、「自分が進さんを押した」ことで、相手が進んでいったのです。このように、「進める力」と「留まる力」は、正反対のように見えて、本当はひとつの関係の中で生まれた“同じ力の別の顔”なのです。
進める力は「意志」の力です。やろうと決めて、行動へと踏み出す力です。
留まる力は「思考」の力です。立ち止まって考え、選び取る力です。
意志は動かす力であり、思考は支える力です。
意志だけでは、ただ突き進むことしかできません。思考だけでは、何も始まりません。
このふたつがあるからこそ、宇宙はバランスを保ち、関係をつくり始めることができました。
🚲 自転車に乗るときの意志と思考
意志と思考の関係は、まるで初めて自転車に乗るときのようなものです。最初、乗れるかどうかもわからないのに、「よし、やってみよう!」と踏み出す心――それが意志=行動です。どれだけ頭で考えていても、最初の一漕ぎがなければ、何も始まりません。
けれど、自転車はただ漕ぐだけではすぐに転んでしまいます。バランスをとり、ハンドルを調整し、足の力加減を調整する。無意識のうちに、それらを“感じて”“判断して”“整える”働きがあります。それが、思考=見極め・調整の力です。
このふたつはどちらも欠かせません。意志がなければ、自転車は動きません。思考がなければ、自転車はまっすぐ進めません。まさに、意志(行動)と、思考(整える力)は、最初の宇宙の一漕ぎでもあり、私たち自身の一歩でもあるのです。
ニルス論では、この「進める力」と「留まる力」が、すべての始まりであり、すべての基本だと考えます。
そして、このふたつの力が出会い、響き合うことで、新しい力が生まれていきます。
それが「広げる力」と「並ぶ力」。次の章では、そのふたつの力についてお話しします。